2023年07月31日
TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSによって、誰もが気軽に情報を送受信できるようになりました。先日メタ社から「Threads」というプラットフォームもリリースされ、大きな盛り上がりを見せています。
自治体においても今後SNSでの情報発信が大きなカギとなるのは間違いありません。この記事ではSNSによる情報発信の現状や意義、活用事例についてご紹介します。
自治体のSNS活用状況
SNSの国内利用率
まずは日本国内におけるSNSの普及率を見ていきましょう。2022年12月時点での国内の総人口は1億2,484万人で、そのうち8割の8,270万人がなんらかのSNSを利用していることが、ICT総研の調査によってわかりました。国民の半数以上はSNSを通して情報を発信したり収集したりしているということになるのです。
また、15歳から79歳の方を対象にしたNTTドコモ モバイル社会研究所の調査によりますと、その中でも利用率が一番高いのはLINEで83.7%。今やプライベートはもちろん、業務連絡の手段としても定着しつつあります。Twitterは43.2%で、手軽に自分の気持ちをつぶやけること、さまざまな情報をタイムリーに収集できるのが人気の理由と考えられます。Instagramは39.9%、Facebookは24.7%、TikTokは10.5%という結果になりました。
自治体のSNS活用割合
上記のようなSNSプラットフォームを用いることで、情報を幅広く届けることができるようになります。
公益財団法人東京市町村自治体調査会が2021年3月に発表した『自治体における効果的な情報発信媒体に関する調査研究報告書』によると、特にTwitterが情報発信の手段として活用されており、東京都内の全区市町村のうち91.9%、23区内にいたってはすべての自治体がTwitterを活用して情報発信を行っています。
FacebookやYouTubeも非常に活用割合が高く、全区市町村ではいずれも72%、23区内では91%です。一方でLINEやInstagramはそれほど高くなく、全区市町村、23区いずれも3~4割程度にとどまります。
プラットフォームごとに差はあるものの、ほとんどの自治体が情報発信の手段の一つとしてSNSを活用しているのです。
SNSを活用する目的
観光、インバウンドへの対策
広報誌や回覧板、同報無線といった従来の広報ツールはどうしても情報を届けられる範囲が狭くなってしまいます。ホームページであればインターネットを通じて情報を広く発信できますが、検索してサイトに辿り着いてもらう必要があり、能動的なユーザーにしか情報を発信できないという弱点があります。
SNSであれば拡散性が高く、「おすすめ」として情報が新規ユーザーに表示されるケースも多いので、より幅広い層に情報を届けることが可能です。
特にSNSでの情報発信は観光やインバウンド需要の発掘に有効といえます。Instagramに観光名所やご当地グルメなどの美しい写真を投稿したり、TikTokで地域のお祭やイベントなどのユニークな動画を発信したりすることで、地域のイメージアップやブランディングの構築、地元企業の商品・サービスの認知度向上につながります。
移住者の増加
現在、少子高齢化や都市部への人口流出によって人口の減少とそれに伴う労働力不足や税収の減少を課題としている自治体も少なくありません。一方でリモートワークの普及や価値観の変化によって地方移住を希望する人も、以前に比べて増加傾向にあります。都会の喧騒を離れて自分らしく生きたい、自然の中でのびのびと子育てがしたいと考えて地方に移住する人が増えてきているのです。
特にそうした層は情報感度が高く、さまざまな媒体で情報を収集している傾向があります。SNSを活用することで移住希望者に対してその地域で暮らすイメージを形成でき、自治体のサービス(移住者に対する補助金や助成金、子育て支援など)を周知することが可能です。移住者が増加すれば地域創生や経済の活性化につながります。
災害や防災情報の発信
地震や台風、大雨などの災害が発生した際には迅速かつ的確な情報発信が必須です。多くの自治体においては同報無線やホームページが主な災害情報の発信ツールとなっています。しかし、同報無線は聞き逃しを発生する可能性があること、ホームページは能動的に情報を取ろうとしている人以外には情報を届けることが難しいといったことがデメリットとして挙げられます。
SNSであればフォローしているユーザーに対してプッシュ通知をする機能も搭載されているため、警報や避難情報などをリアルタイムに発信し、ユーザーに届けることができます。避難所までの経路や河川の状況なども画像でわかりやすく発信することができます。また、日頃から防災に関する情報を発信することで、住民の防災意識の向上にもつながります。
自治体の各SNSの活用による成功事例
Twitter活用事例
キャンペーンを活用し、来訪者を急増させた高知県
太平洋に面して穏やかな気候で自然が豊かな高知県。その魅力をもっと知ってもらい、観光客を呼び込もうと、高知県ではTwitterとInstagramも運用しています。
高知県といえば、かつおや四万十川、坂本龍馬、よさこい祭りなどが思い浮かびますが、SNSでは主にあまり知られていないおすすめスポットをアピールしていました。2019年にはTwitterを活用し「リョーマの休日 #一生忘れられない高知旅行 ぷち体験キャンペーン」を実施。フォロー&リツイートをした人の中から抽選100名に「高知県産品が購入できるオンラインクーポン」をプレゼントするというもので、キャンペーンによってフォロワー数は1万8,000人、およそ10倍も増加しました。
県が実施したアンケートによると、33%のSNSフォロワーが実際にアカウントを見て高知県に訪れたということです。
Twitterから地方創成のための取り組みを募集、京都府京都市
京都市広報の公式twitterは、行政情報や時事的な話題を発信しています。京都市内への住人増加や地方創成を図るために、さまざまな工夫をし活用されています。
中でも京都市では、地方創成を図ることを目的として市民や地域団体、NPO、企業、大学等から取り組み内容の募集をtwitter上で行い、活動の内容を掲載しています。地域の企業や大学等と双方のコミュニケーションをとり、よりより町づくりへ向けて活動されている事例です。
地域住民が必要とする情報を提供し満足度向上へ、大阪府茨木市
茨木市は大阪府の北部に位置する市で、大阪市と京都市の中間に位置し、ベッドタウンとして発展してきました。
茨木市ではTwitterで自治体が提供するサービスの内容や市内で開催されるイベント情報、人気スポットなど、幅広い情報を発信しています。フォロワー数は2023年7月現在で1.3万人に。住民が必要としている地域情報をSNSを通じて気軽に取得できるようになり、行政と地域住民とのつながりが深くなったということです。
近年ではSNSを積極的に活用している若年の移住希望者向けに補助金制度や子育て支援、子ども向けのイベント情報などを積極的に発信しています。
京都市のtwitter活用は、様々な方からの意見や協力を募ることで魅力を育み、ひいては移住促進につなげるための取り組みが行われている事例だといえます。
Facebook活用事例
フォロワー数が人口比全国第1位!沖縄県渡名喜島
沖縄県渡名喜村は、日本で2番目に小さい自治体で、人口は300名程度と言われています。渡名喜村が活用しているFacebookのフォロワー数は、2023年7月時点で8939人と人口の30倍程のフォロワーが存在しています。フォロワー数に対する人口比率は全国でも1位となっています。
「おくなわプロジェクト推進協議会」で、効果的な情報発信を行おうと2012年に開設されました。
地域おこし協力隊と呼ばれるメンバーが、情報収集を行い平日はほぼ毎日記事を投稿し更新するなど精力的にSNSの活用が行われています。海、山の景色、島の行事や特産品を紹介しています。
また、Facebookの投稿に寄せられるコメントにも丁寧に返信をすることで双方向のコミュニケーションが生まれています。
Facebookジャパンと提携した神戸市
兵庫県神戸市は、行政の情報発信に問題意識を持ち、Facebookジャパンとの提携を図りました。運用基準などの助言を受け、それらをまとめたガイドラインを作成することで効果的な情報発信をはじめました。
地域経済活性化の成功事例として神戸市須磨区の、ある商店街からイベントの集客のためにFacebookを活用したいとの希望を受け、Facebookと神戸市が協力をしてイベント当日には多くの新規客が来訪するといった集客効果を見せました。商店街の経済活性化に貢献するだけでなく、商店街の状況を理解することで地域との交流を深めています。
また、こういった事例をもとに、ノウハウを他地域へ提供し持続的な地域社会の構築を図っている事例です。
地域イベントを定期的に発信、佐賀県武雄市
佐賀県にある武雄市は山地に囲まれた人口約4.9万人の地方都市です。
2012年から市のFacebookを開始しました。武雄市では、フェイスブック・シティ課という組織を職員の方で編成し、運用を行ってきました。
2023年時点でのフォロワー数は2.3万人にのぼり、市から行政情報やスポーツ大会などのイベント情報、防災情報まで多岐にわたり地域情報を定期的に発信しています。
地域住民の方にとって必要となる情報や行政が行っている活動を、市からSNSを通して定期的に届けることで地域住民との距離をより近づけています。住民にとっては無くてはならない情報発信メディアとなっていることは間違いありません。
Instagram活用事例
バズった「#葉山歩き」、神奈川県葉山町
神奈川県葉山町は三浦湾に面し、丘陵地に囲まれた自然豊かな町でリゾート地として知られ、皇族が利用する御用邸もあります。
葉山町では公式Instagramアカウントを運用しており、「#葉山歩き」というハッシュタグをつけて町内の美しい風景写真を投稿したところ、多くの人から注目される、いわゆる「バズる」という状態になったのです。
一般のユーザーも葉山町内で撮影した写真に「#葉山歩き」というタグをつけて投稿してくれるようになり、投稿件数は82,000件を超え、葉山町の公式Instagramアカウントのフォロワー数も3万人を超えました。
インフルエンサーを活用しフォロワー数の7倍のリーチ、甲府市
自然があふれ四季の移ろいが感じられる山梨県。その県庁所在地である甲府市ではTwitterやFacebookの公式アカウントはあったものの、十分活用されているとは言い難い状況でした。もともと山梨県の観光客はシニアや男性が中心でしたが、若年層の女性も取り込みたいということで観光課専用のInstagramアカウントも開設。職員の方がおすすめのお店を紹介するなど投稿を続けてきました。
さらに、インフルエンサーが職員とともに市内をまわり、インフルエンサー自身に楽しんで投稿してもらうことで、効果的なPR活動に。質の高い投稿はフォロワー数の7倍へリーチが拡大し、ブックマーク数も3,500件以上という大きな成果が得られたそうです。
フォトコンテスト開催し話題に、福岡県福岡市
福岡県、そして九州の中心的な存在である福岡市では2016年に公式Instagramでフォトコンテストを開催しました。ユーザーはルールにそって写真を撮影し、ハッシュタグをつけることで参加しました。
グランプリや優秀賞は「いいね!」の数で決められるため非常に公平で、応募回数の制限も設定しなかったため、福岡市の魅力や生活感が伝わるような写真が数多く投稿されました。福岡県の公式Instagramアカウントはフォロワー数が5万人(2023年7月現在)で、自治体が運用するアカウントとしてはかなりフォロワーが多いです。このフォトコンテストが注目を集めた一つの要因となっています。
YouTube活用事例
移住件数が4.5倍!宮崎県小林市
今や老若男女幅広い人が利用しているYouTubeを活用して地域をPRする自治体も増えてきました。宮崎県小林市が運営する「小林市公式チャンネル」にアップロードされた宮崎県小林市移住促進PRムービー『ンダモシタン小林』が非常に注目を集めました。主人公はフランス人男性で小林市の魅力を紹介しているのですが、実は男性が話しているのはフランス語ではなく小林市の方言なのです。
このユニークさが受け視聴回数は2023年7月現在316万回にものぼり爆発的な人気となり、この動画を投稿してから、小林市への移住件数は4.5倍に増加しました。
低クオリティで注目?長野県小諸市
長野県小諸市も「小諸市公式チャンネル komorocity channel」にて移住PRをメインに動画コンテンツを発信しています。その中でも『小諸市PR動画第1弾 小諸がアツ・イー!本篇』が話題となったのです。出演から撮影、編集まですべて職員の手作りで、制作費は9,500円ということで、非常に低コストで作られたPR動画としてメディアに取り上げられました。
一方で、寸劇とチープな演出で「クオリティが低すぎる」としてSNSで話題に。それが注目を浴び、これまで6.4万人に視聴されました(2023年7月現在)。味があり職員の地元愛が感じられるということで好評となっています。
フランス人YouTuberを起用したPR、瀬戸内
自治体が有名YouTuberに地域の魅力を発信してもらうというのも効果的です。チャンネル登録者数33.9万人(2023年7月現在)を誇る『Ichiban Japan』を運営し、日本を旅しながら日本の魅力を発信しているフランス人YouTuberギギ先生と瀬戸内地域の各自治体がコラボ。2017年10月にIchiban Japanでギギ先生が広島・香川・愛媛・岡山を周遊する動画がアップロードされました。
さらにその後香川県が単独でギギ先生を起用したPR動画を作成。YouTubeチャンネルでの公開はもちろん、フランスで開催された日本文化を紹介するイベントやフランス国営テレビでも放映され、インバウンドの増加に寄与しています。
自治体がSNSを活用する際の成功のポイント
炎上リスクを避けるためガイドラインを定める
SNSを運用する上で気をつけなければならないのが、いわゆる「炎上」です。過去にもさまざまな炎上騒動がありましたが、多くのケースでは対応の遅れや危機管理の不十分さが騒動の拡大につながっています。ひとたび炎上してしまうと、その自治体にネガティブなイメージが定着してしまい、住民や観光客、移住希望者からの信頼が低下してしまいます。
そうならないためにも、投稿時のルールや炎上時の対策などのガイドラインを策定しましょう。そうすることで万が一炎上した際にも迅速かつ的確な危機管理が可能になるのはもちろん、情報の正確性や適切な配慮がなされるようになる、適切なコミュニケーションや対応を通じてユーザーやフォロワーとの信頼関係が構築できるなどのメリットも得られます。
運用する目的を明確にする
ただなんとなくSNSをはじめるのではなく、目的を明らかにしておきましょう。運用目的がはっきりしていれば、SNS上でのターゲットも明確になり、それに合わせたコンテンツが提供できるようになります。ターゲットとコンテンツが適合していれば、より多くの関心を惹くことができ、効果的にコミュニケーションを図れるようになるはずです。
たとえば観光客の誘致という目的があったとしても、文化や観光資源は地域によってさまざまです。目的とターゲットがはっきりしていれば、一貫したメッセージが発信可能で、強力なブランドイメージの構築につながります。
また、運用目的が明確になっていれば、それに対して必要なリソース(人材、予算、時間など)の適切な配分もできるようになり、コスト削減や業務効率化にもつながります。
SNS専用の人材を抜擢する
SNSの投稿自体はパソコンやスマホが使えれば誰にでもできますが、フォロワーを増やす、目的を達成するとなると話は別です。SNSで成果を上げるためには定期的に情報を発信していかなければなりません。投稿を不特定多数の職員任せにしていては更新が止まってしまうこともあり得ます。
また、成果を上げるためには反響データを分析し、改善を積み重ねていくことが重要です。データ解析力や洞察力が求められます。
担当者を決めておけば定期的な更新ができるようになり、知識や知見がたまるので、成果が出やすくなります。
プラットフォームの選定
SNSのプラットフォームにはそれぞれ特徴があります。たとえば画像に特化したInstagramは比較的若年層が多く利用しており、美しい写真を投稿することで反響を得られるかもしれません。一方、テキスト中心としたツイート(つぶやき)を投稿するTwitterは若年層に加えて中高年層も利用しているプラットフォームで、非常に拡散性が高く、ユニークなツイートは多くの人に拡散される可能性があります。
各プラットフォームの特徴を知った上で、地域の特性やターゲットとなるユーザー層に合わせて適切なプラットフォームを選択してコンテンツを配信することで、より多くの人々にアプローチできるようになります。
SNSを運用する上で戦略を立てることが重要
戦略的にSNSを運用していくことで、よりフォロワーの獲得やファンの増加につながります。先ほどの事例でもご紹介したように、フォトコンテストやキャンペーンなどの企画を実施すれば、観光客の増加につながる可能性もあります。地元出身のインフルエンサーや人気のインスタグラマーやYouTuberとコラボ企画を行い認知度を高めるのも選択肢の一つです。
SNS運用で成果を上げるためには明確な目的と、それを実現させるための戦略が必要不可欠といえます。
まとめ
現在、SNSを活用し町おこしをしている自治体が増えており、成功事例も多くなってきています。まだ人々が知らない地域の情報、緊急性がある情報を他の媒体と比較して確実に届けられるのがSNSの大きなメリットです。また、地域外のユーザーにも積極的に情報を発信することで、観光客や移住者が増加し、地域が活性化する可能性も大いにあります。
SNSを含めインターネットの活用が、今後の自治体の命運を分ける大きなカギとなるのは間違いなさそうです。